中国の「製品品質法(改正の意見募集稿)」の概要について<仮訳>[1]

发布时间:2023-11-20

著者 | 李太陽 匯業法律事務所 パートナ一

2023年10月18日、中国市場監督管理総局(以下、「SAMR」という。)は「製品品質法(改正の意見募集稿)」(以下「改正案」と略称する)を公布し、2023年11月18日までに公衆に意見を公募します。

中国の「製品品質法」は1993年に制定され、2000年、2009年及び2018年に改正が行われたことがあり、今回は、四回目の改正です。改正案では「品質強国」[2]の建設、質の高い発展の推進、事業者の責任の徹底、製品品質管理制度の整備を図るために、条文が現行の「製品品質法」(以下、「現行法」という。)の74カ条から111カ条に増え、現行法の規定内容を大幅に改定しました。改正案の概要は、主に下記のとおりです。

1、各事業者の製品品質責任の拡大

① 製品品質責任者範囲の拡大

現行法には主に生産者と販売者の品質責任が規定されています。生産者と販売者に加え、改正案には他の事業者の品質責任を補完し、明確にしました。
他の事業者には、製品の保管・輸送事業者、電子商取引の第三者プラットフォームサービス提供者、オフラインの第三者事業者、サービス業事業者などが含まれています。詳細は、表1の定義をご参照ください。
表1:製品品質責任者(事業者)範囲の改正前後の対照

b6a0c7fd47e50307f492472790fe242.jpg(※:上表中の青字表示の部分は、改正案の修正内容です。以下同じ。)

② 生産者、販売者の義務の追加

改正案は、生産者、販売者の義務を増やしました。生産者、販売者としては、表2の示したとおり、既存の「その生産、販売する製品に人身、財産の安全を脅かす不合理な危険が存在しなく、強制的国家規格がある場合には、当該規格に合致すると保証しなければならない」ほか(第12条)、製品品質安全事故報告義務、欠陥製品リコール義務、製品全チェーン・トレーサビリティー義務などを負わなければならないと改正されました。
表2:事業者の品質義務の改正前後の対照

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③ 製品の品質義務の強化

改正案は生産者、販売者が品質安全管理制度を確立し、実施する義務を改善しました。事業者は、その経営の規模や製品の種類、リスク等級などに応じて、専任又は兼任の品質管理要員を配置し、品質安全の管理・コントロールを実施し、製品の安全を保証しなければならないなども明らかにされました。
また、生産者は製品の市場参入許認可、入荷検査及び記録保存の義務を負う必要があり、販売者にも入荷検査と記録保存の義務があるとされております。生産者、販売者の品質義務の詳細につき、表2をご参照ください。

④ 製品品質表示義務と内容の明確化

表3に示したとおり、改正案は生産者、販売者の製品品質表示義務を整理し、さらに明確化にしました。
同改正案によりますと、製品品質合格情報、生産日、連絡先、実際の生産地情報及び製品規格を実行する番号、安全使用上の注意事項、警告記号又は警告説明、製品の品質標識、認証証明書番号或いはコードなどの記載や表示が要求されています。

⑤輸入品に対する特別規制

改正案は、輸入製品の表示の特別要求を明確にしました。輸入品について、当該製品の製品名、原産地、国内輸入業者の名称、住所、連絡先などの明記と輸入製品の表示に対する特別要求も明確にしました。
同時に、改正案は、輸入者又は国外生産者の授権代表に対して、同法における生産者、販売者の製品品質義務を適用する旨を明確に規定しております。

表3:改正前後の輸入品関連規定の対照

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⑥品質事故時の自主報告義務の追加

改正案は、製品の品質事故を事業者が知った後に当局に自発的に報告すると義務付けました。具体的には、表4の示したとおり、生産者は製品品質事故(人身の死傷、重大な疾病又は比較的大きな財産的損害その他の事故)を知った後2日以内に省級市場監督管理当局に報告し、報告日から7営業日以内に事故調査報告書を作成し、当局に提出しなければならないということです。
同時に、販売者及びその他の事業者が製品事故を発見した場合、直ちに事故状況を生産者に知らせ、同時に現地の省級市場監督管理部門に報告しなければならない。生産者は、販売者やその他の事業者から報告をうけ、上記の手順で対応するようになります。
表4:自主報告義務の関連規定

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⑦景品、賞品の製品品質責任の明確化

改正案は、生産者、販売者、サービス事業業が提供した景品、賞品に対して製品の品質責任を負うべきだと規定しています。具体的には、表5のとおりです。
表5:景品、賞品の製品品質責任の関連規定

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2、品質監督制度の整備と法執行権限の増強

事業者に製品品質責任の徹底を促すために、改正案は政府の監督管理体制の整備、及び監督管理職権の増強についても規定しました。

① 品質監督管理の原則の明確化

品質監督管理体制の面では、改正案は政府による製品品質監督業務の全体的な要求を明確にし、すなわち製品品質監督業務は安全を優先し、予防を主とし、リスクに応じて分類監督管理を実行し、科学的で効果的な監督管理制度を確立するとされています。(第32条)
また、改正案には、「品質促進と品質インフラ」といった特別章(第四章)を設け、中央と地方の各級政府及び市場監督管理部門が品質を向上させ、発展を推進する仕事の職責、方略、ツールと方法などが盛り込まれています。

② 法執行機関の権限の充実

製品の品質法執行の権限について、改正案は、法執行機関の権限を充実しました。法執行機関による銀行口座その他の資料の閲覧・複製、違法経営活動の疑いがある場所の検査・差し押さえ、事業者に欠陥又はその他の品質問題がある可能性のある製品の移転・隠匿・廃棄の禁止命令の権限、苦情通報制度などが補足し、整備されました。

③ 欠陥製品リコール制度の導入

これまで、中国には自動車、消費財、食品、医薬品など特定の商品に対してリコール制度が規定されていましたが、今回の改正案はすべての製品に適用できるリコール制度を追加し、欠陥製品の調査とリコールの発動、取り扱いなどをめぐって規定をしました。[3]具体的には、下記表6のとおりです。
表6:リコール制度の関連規定

bb94549051a53ba7f0611535204c3bc.jpg ④ 特殊消費品の規制強化

改正案は特に、児童用品や妊娠中・授乳期の女性用品、高齢者や障碍者の用品などの特殊消費品の品質監督要求を強化しました。
特殊消費品の対象製品については、別途目録が制定されるとされています。大まかに言いますと、特殊消費品につき、製品の品質、安全評価、ラベル表示において、特殊消費品に適用される規格、要求はより厳格です。
表7:特殊消費品の関連規定

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3、 法的責任と罰則の強化

① 懲罰的損害賠償制度の導入

改正案には、懲罰的賠償制度を導入しました。表8の示したとおり、生産者、販売者が製品に欠陥があることを知っていても生産販売したり、市場に投入した後に欠陥があることを発見しても効果的な救済措置を取らず、他人の死亡や健康に深刻な損害を与えた場合、被害者は(損害賠償の他に)その損失の2倍に相当する懲罰的損害賠償を請求する権利もある、とされています。
表8:懲罰的賠償制度の関連規定

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② 訴訟時効と除斥期間の延長

製品品質責任の訴訟時効は、表9の示したとおり、元の2年間から3年間に改正され、除外期間は現行の(製品が最初の消費者に渡された日からの)10年間から20年間に延長されました。また、改正案では、明示された品質保証期間が上記の除外期間(20年)を超える場合、この除斥期間(20年)は適用されないとも規定しています。
表9:改正前後の訴訟時効と除斥期間の対照

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③ 罰則の強化

改正案はまた、製品の品質違法行為に対する処罰を強化しました。一部の重要な違反行為の罰則につきましては、表10をご参照ください。
例を挙げますと、事業者による品質安全義務違反の行為に対しては、罰金の上限を現行の「商品価値金額の3倍」(現行法第49条)から「商品価値金額の5倍」に引き上げました(改正案第83条)。情状が重い場合には、「商品価値金額の5倍以上10倍以下の罰金を科し、許可証と営業許可証を取り消す」までも処罰できるとされています(改正案第83条)。
同時に、改正案には生産者や販売者などの事業者の法定代表者、実際の支配者などの個人に対する処罰(例えば5〜10万元の罰金、第83条)などが追加されました。
表10:一部罰則の改正前後の対照

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4、その他

また、改正案は製品の品質に関する公益訴訟の規定(第81条)を補足し、サンドボックスの監督管理理念(第60条)を導入し、「事業者」、「生産者」、「販売者」、「欠陥」、(処罰の基礎となる)「商品価値金額」の定義(第108条)などを追加又は改善をしました。詳細につき、表11をご参照ください。
表11:一部定義の改正前後の対照

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上記「生産者」の定義は、主にこれまでに最高人民法院(中国の最高裁)の判例等で判示されていた判決内容を条文化したものです。同定義から見ますと、実際に製品の生産を行う事業者は生産者に該当するとはいうまでもなく、事業者自らが製品の生産を行っていないとしても、自社の名称、商号、商標などを製品に表示する場合でも、生産者とみなされ、品質問題に対して損害賠償を求められることも想定できます。この点につき、特に知的財産のライセンスビジネスを展開する事業者にとっては注意に値します。

改正案の規定からみてみますと、改正案は各事業者の義務や法的責任を拡大するだけでなく、事業者が違法に該当する場合の個人的責任の追及、製品品質公益訴訟なども設けられています。上述の改正案の内容が最終的に可決されるようになりましたら、これは企業の製品品質責任と違法リスクの増大につながりかねないと考えられます。ですので、関連事業者としては同法の今後の立法動態に緊密に注目し、適切な対応をとる必要があると想定できます。

脚注

[1]先週、小職らの制作したクライアントアラート(Vol. 231107)を送付させていただきました後、一部お客様のご要望に応じて、その中の「中国製品品質法(改正の意見募集稿)」の関連内容を仮訳し、改正前後の一部条項の対照表などを追記したうえで、本文を作成しましたので、ご参照ください。

[2]中国共産党中央委員会と国務院は2023年2月6日、「品質強国建設綱要」を発表し、「品質強国」といった目標およびそれに向けた取り組みを示しました。

[3]厳密に言いますと、中国「民法典」第1206条、「消費者権益保護法(2013年改正)」第19条などでは、欠陥製品のリコール制度が規定されています。これらの規定は抽象的なものであり、実際には、自動車、消費財、食品、医薬品など一部製品について、特別法によりリコールに関する細則を設けて実施されています。



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